経済野話(現代訳・抄訳)⑤「金利論」
1.(英国の哲学者)フランシス・ベーコンの論説集に次の名句がある。
「利息は日曜、祭日といえども休まない。人間が睡眠している間にも進行するもの である。故に利息を取ることを目的とする職業は、神の思し召しに背くものである。」
利子が安ければ安いほど生産的事業は増加するという点からいえば、無利子である経済組織は純理上は理想的ではあるが、経済生活において勤労を奨励する制度はどうしても必要であると思う。資本に対し利子を認めることは、程度の問題、言い換えれば勤労心を妨げない程度の利息を認めれば良い。
2.金利の安い国ほどその国の経済状態は健全であるといわれるが、英米の経済社会の発達する現状から明白である。
英国においては、英蘭銀行の銀行貸出率に基づき設定される一般の定期預金利率は2%,貸出率は4%,当座預金利率は0であり、米国もほぼ同程度。これに対しわが国の定期預金利率は6%,貸出率は9~12%と高い。これはわが国の経済上の実力が劣っているからに他ならない。
3.金利の点から見るとわが国は、確かに世界の劣等国ではあるが、一面わが国の経済力を考えると何処かにその不当な原因があるような気がする。
わが国の金利が高い原因はいろいろあるが、従来の為政者が取ってきた通貨縮小政策が、この趨勢を高めたものと確信する。過度に通貨を緊縮することは、不適当に金利を高める結果になるのであって、物価の騰貴を防ぐために通貨を縮小することは、決して物価問題の根本的解決方法ではない。
4. 大正12年の大震災の復興問題は、現在および将来のわが国経済界が抱える重要問題である。
かりに復興予算、地方復興予算、保険貸付金等を7億円、政府の行うべき復旧事業費を6億円とすると総計13億円、これに民間の復旧事業費を20億円とすると、ここに30億円から40億円の金が必要となる計算で、これに対する金利はわが国のように金利の高い国では異常に大きくなる。復旧復興事業は、健全に行われず、また商工業の勃興も容易には望めない。
先ず金利の引き下げを断行し、豊富な資本と低廉な利子により大幅に機械化を進めて生産能率を高め、物価を安くすることが必要と考える。
5.諸工業が健全に発達するには、資本家、労働者、消費者の三者の満足が根本要件となるが、これも金利を安くすることに帰着する。
金利さえ安くなれば、労賃は高くなり、製品は安くなり、労働者も消費者も工業家もこれに満足することになり、経済社会は安定を保ち、いわゆる労使問題も起こる余地がなくなる。労使協調というが、結局は金利引き下げ問題に帰着する。