経済野話(現代訳・抄訳)⑧「わが国経済界の現況について」

1. 国内の物価問題を解決するためには、先ず金利を引き下げることを第一とし、その方法として一方では通貨の増加を図るとともに、他方では在外正貨の売り止めを断行することで輸入超過を防止、国内の産業を興して輸出を計らなければならないと考える。

2. 英米先進国においては、通貨が充実しているから金利が安い。その結果として

(1) 有価証券の利回りは低下傾向で、その価格は常に高騰の兆候を示す。国内の財産は増加の傾向にある。

(2) 国債、地方債の利回りは低下し、その結果として国民の負担も漸減傾向にある。

(3) 生産費は少なく、輸出は増加傾向を維持、国内の物価は安く輸入は減少する。

かくして英米の経済社会は安定し、健全な基礎の上に好況状態が続くと見られる。

3. わが国の経済界を英米と比べると、根本的に組織上の欠陥がある。すなわち、

(1) 通貨が不足し、金利が高い。有価証券の利回りは良いが、その価格は低落し、財産評価は安くなる。

(2) 国債、地方債の利回りは高騰の傾向にあり、これがために国民の負担は増加、金融は硬直する。物質的設備計画は進まず、公共事業も伸び悩んでいる。

(3) 国内各事業の生産費は増加し、輸出は減退する。他面、物価は下がらず、輸入超過の傾向は次第に強まる。

かくの如くわが国の経済状態は憂うべき傾向にある。

4. 結論としてわが国経済界における根本の欠陥は、金利が高いということに帰着する。金利の引き下げを断行しなければ到底健全な発達は望み得ない。

なお、わが国において、官民ともに不労所得を尊重し、勤労所得を軽んずる傾向がある。税法においても物価においてもこの弊害が見られる。

◎鈴木商店関連資料「経済野話」(原文・e-book)

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