鈴木商店のユニークな規定シリーズ①「済美会」をご紹介します。
2015.10.18.
鈴木商店では、本社ならびに直系事業所および分身会社(関係会社)に適用する各種規定を定めていましたが、「現行例規集」としてまとめられています。昭和2(1927)年3月発行の例規集には、権限規程、服務規程、旅費規程等々細部にわたる社内規則が定められています。
大正6(1917)年制定された規定、規則から破たん直前の昭和2年3月の改定まで網羅されていますが、当時の社会情勢を反映したり鈴木商店特有の規定が見られます。シリーズ①では、「済美会」規定をご紹介します。
大正8(1919)年1月制定された「鈴木合名会社済美会会則」は、会員(社員は入社と同時に同会の会員となる)の親睦と慶弔に関わる規定で、社員の福利厚生全般にわたり鈴木商店の大家族主義が随所に見られます。また会報を発行して会員の動静等を知らせていました。
慶弔に関してユニークな規定が見られます。 ★会員が結婚するときは祝儀として初婚の場合は金30円、再婚の場合は金20円を贈与する。(会則第7条) また時代を反映した次のような規定も見られます。 ★会員が兵役のため入営、入団するとき、兵役2年以上に対し15円、1年志願の場合は10円の餞別を贈与する。(会則第10条) さらに大正15(1926)年に改定された細則には次の規定があります。 1.男女の会員が結婚した場合の祝儀は双方に贈与し、またその間に出産あった場合の祝儀は男子会員にのみ贈与する。 2.双子出産の場合の祝儀は、一人分のみ贈与する。3つ子のときもまた同じ。
鈴木の大家族主義を表す「済美」の名は、鈴木商店各地の宿舎(社宅)および関係会社の宿舎(社宅)に「済美寮」と名称を付すことが定められました。(済美寮命名の件、大正6年12月14付支配人通知)鳥羽造船所(三重県鳥羽市、現・シンフォニアテクノロジー)の裏手にあり推理作家・江戸川乱歩が作家デビューする前に住んでいた社宅にも「城山済美寮」の名が、また播磨造船所付属幼稚園には「済美幼稚園(現在の相生幼稚園)」の名が付けられました。
済美会は、鈴木商店破たんにより消滅しましたが、再建を期してスタートした日商には永井幸太郎(第2代社長)の発案で「済美」の名が社内報「済美」や絵画同好会「済美会」として復活し、往時を偲んで活動を続けていました。
孔子の編纂した「春秋」の注釈書「春秋左伝」にある「世々其の美を済(な)し」(美徳を成就すること、子孫が父祖の良い行いを受け継ぐこと)に由来する「済美」の精神が永く鈴木商店にまつわる人々に伝えられて来ました。