鈴木商店のユニークな規定シリーズ⑤「発明に関わる内規」をご紹介します。
2015.12.24.
工業による経営の多角化こそ産業立国に貢献するという金子直吉の信念のもと、鈴木商店は次々に生産会社を生み出しています。それぞれの企業において革新的な技法や発明につながる新技術が実現されると、企業としてその対応が必要になって来ます。
改正特許法が施行(大正10(1921)年4月)されると、鈴木商店では、翌年大正11(1922)年12月7日付で、社員の発明に関してその権利帰属や取扱いを定めた「職員被用人発明を為したる場合の取扱い内規」を制定しています。この内規によれば職員や被用人が勤務に関して発明をした場合、特許を受ける権利や特許権は会社(関係会社を含む)に譲渡されることと規定しています。さらに譲渡に際して発明者に補償金や報酬を支払う時は本社の承認を得ること、その費用は各事業所の負担とすることが定められています。
また勤務に関係ない発明についてもその発明が業務上、利害関係を生ずる場合は発明者に対し特許を受ける権利、特許権の譲渡を要求すべしとしています。現在の「職務発明」につながる企業理念がすでに存在していたと云えます。
現行特許法では、権利の取得、対価の支払いを社内規定で定めた場合に限り会社は発明者である社員から「職務発明」を承継できるとしており、「職務発明規程」の整備が不可欠となっています。しかし近年、法人が支払う"相当の対価"を巡ってしばしば係争に発展することが見られます。
相当の対価を巡る訴訟のリスクを避けるため、職務発明制度の見直しが求められ特許法の一部改正が決まりました。2016年4月から施行される特許法では、社内規定で法人帰属の意思表示をしておくことにより職務発明の帰属を始めから法人に可能とするものです(使用者原始取得)。大正期に鈴木商店が定めた発明内規に近づく内容となっており、会社と社員の信頼関係が根底にあってこそ新制度が生かされます。
職務発明制度見直しによる現行特許法の改正については、下記の関連資料をご覧ください。