鈴木商店こぼれ話シリーズ⑪「金子直吉の国字国語改良の提言」をご紹介します。

2017.8.6.

4303-2 経済野話.jpg金子直吉が日頃から日本の経済界の実情などについて考えたことを金子の秘書を務めた住田正一(後に呉造船社長・会長、東京都副知事を歴任)が口述筆記し、金子直吉名で刊行された唯一の著書が「経済野話」。大正13(1924)年、巖松堂書店(東京)より出版された冊子は、 金子直吉の経営センス、時代を見通す優れた先見性が読み取れる。

同書は、全9項目についてまとめられているが、2番目の項目には「国字の経済的改良」と題してユニークな国字国語改良論を展開している。一つは横書きにすること。そして日本文と英文を混在させた文章を用いること。さらに「御座候得共」とか「なかるべからず」というような表現を改めることを提案する。

日本文と英文の混在文については、大正12(1923)年の大阪毎日新聞に次のような記事があったと「神戸謎解き散歩」(大国正美 編著・新人物文庫)にも紹介されている。

「例えば、"船を傭(やと)う"という意味を"Charterす"と書き、この英字に傭船(ようせん)と振りかなをつけるのである。こうしておけば英語を知っている者は一目瞭然、知らざるも振りかなで助かり、知らず知らずの間に英語と親友になれる」というもの。

金子は提案する国字改良の例をあげて説明している。

ふくざわ Professor(せんせい) idiograph(もじ)teaching(おしえ),

Japan(にほん) にかなの idiograph(もじ) ありながら china(か ん)-character() を mix(まじえ)

use(もちいる) は very(はなはだ) inconvenience(ふつごう) なれども ancient(むかし)-time よりの usage(しきたり)

にて whole(ぜ ん こ く)-country daily(にちじょう) の writing(しょ) に all(みな) china(か  ん)-character()

use(もちいる) の custom(ふう) となりたれば now(いま) suddenly(にはかに) this(これ) を abolotish(はいし) せんと

するも also(また) inconvenience(ふつごう) なり 

国字をもっと改良することは、この際我が国国民生活の能率を高めるうえからも最も大切なことで、もし語学のために今までのように多くの犠牲を払う必要がなくなれば、日本はもっと商業も発達し国富も増加、世界の競争に堪えることができると主張している。

「国字はその国の生命であり、その国民と共に発達し終始したものなのに、今我が国が英語を輸入することは我が国の滅亡を招く」という批判があるが、この議論は根本に誤解がある。国語と国字とを混同したことが誤りである。国語は確かに国の生命で、言葉を変えるということは絶対にできないが、国字を輸入することは何ら差支えない。

さらに「他国の言葉を輸入してもその実益は少ない」という意見もあるが、金子は、他国の国語は輸入すべきではないが、その文字を借用して我が国民の知識を高めることは、むしろ必要なことで、この点からも英語を我が国語の中に取り入れ、広く知識を世界に求めるべきと信じると結んでいる。

これらの金子の主張はかなり突飛なものに映ったらしいと伝えている。今では横書きが主流になり、日常会話でも新聞や雑誌などでもカタカナ言葉が氾濫し、日本語、英語、中国語など複数の言語を併記した標識が増えている。およそ100年経って、ようやく金子の発想に追いつく時代になったと云えるかも知れない。

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