「神戸発祥の総合商社の源流・鈴木商店を知る」講演会で、北九州市門司麦酒煉瓦館館長の市原猛志氏が講演されました。

2018.12.17.

P1060658.jpg神戸市主催の「神戸発祥の総合商社の源流・鈴木商店を知る」第3回講演会で、当記念館の協力者でもある北九州市門司麦酒煉瓦館館長の市原(たけ)()氏が講演されましたのでご紹介します。

P1080416.JPG【市原猛志氏 講演概要】
日時  : 平成30年12月15日(土)  14:00~15:00

場所 : 神戸ポートオアシス5階 502会議室(神戸市中央区新港町5番2号)

主催 : 神戸市(みなと総局 計画部 港湾計画課)

演題 : 鈴木商店と関門コンビナートおよび筑豊炭鉱事業 ~ 北九州各地に現存する鈴木商店の産業遺産 ~

【市原猛志氏プロフィール】
北九州市門司麦酒(びーる)煉瓦(れんが)館館長・九州大学大学文書館協力研究員・博士(工学)、(九州大学百年史編集室元助教)、北九州市(仮称)平和資料館担当学芸員、産業考古学会理事、国際産業遺産保存委員会(TICCIH)会員、特定非営利活動法人J-heritage理事。近代建築を中心とした近代化遺産・産業遺産の研究で知られ、北九州産業遺産の第一人者。

(著作)
・「北九州技術革新史(全体編)」(単著)
・「北九州の近代化遺産」「福岡の近代化遺産」「筑後の近代化遺産」(ともに共編著)等多数。

daoriseitousyo2.PNG※左は鈴木商店が設立した当時の大里製糖所、右は大里製粉所です。

明治36(1903)年、金子直吉は、門司市大里(だいり)地区の立地・便利の良さに目をつけ、臨海部に鈴木商店大躍進のきっかけとなる大里製糖所(現・関門製糖)を設立しました。

これを皮切りに、鈴木商店は再製塩工場[明治43年]、大里製粉所(現・日本製粉)[明治44年]、帝国麦酒(現・サッポロビール)[明治45年]、大里酒精製造所(現・ニッカウヰスキー)[大正3年]、大里精米所[大正4年]、神戸製鋼所門司工場(現・神鋼メタルプロダクツ)[大正6年]、日本冶金(現・東邦金属)[大正7年]など、明治後期から大正中期にかけて鈴木系企業の工場が次々に進出し、一大工業団地が形成されました。

dairikaramitahikosima2.PNG※左は大里から見た彦島。右は平成12(2000)年まで稼働していた煉瓦(れんが)造としては珍しい7階建の旧・サッポロビール醸造棟(旧・帝国麦酒の「仕込場」)で、現在は「門司麦酒煉瓦館」(旧・帝国麦酒事務所)等とともに建築群「門司赤煉瓦プレイス」として観光・商業施設に活用されています。

また、関門海峡を挟んだ対岸の彦島・下関地区においても同様に、日本金属彦島製錬所(現・三井金属鉱業傘下の彦島製錬)[大正5年]、彦島坩堝(るつぼ)(現・日新リフラテック)[大正7年]、クロード式窒素工業(後・東洋高圧工業、現・下関三井化学)[大正11年]ほか化学工業を中心に鈴木系企業が次々に進出し、工業団地が形成されました。

鈴木商店の大里・彦島における工場群の建設については、次の「地域特集」もあわせてご覧下さい。

地域特集>大里(門司)
地域特集>彦島(下関)

一方、福岡県筑豊にはかつて鈴木商店の炭鉱事業の出発点ともいうべき大徳炭坑、神之浦(こうのうら)炭坑が存在し、ほぼ同時期に設立された帝国炭業[大正4年設立]、(おき)見初(みぞめ)炭鉱(宇部)[大正5年設立]を経て鈴木商店破綻後の羽幌炭砿(大正7年鉱区買収、昭和15年開坑)の開発へと(つな)がっていきます。

市原氏の講演は、前半は鈴木岩治郎による鈴木商店の創業期の話から始まり、台湾での金子直吉と台湾総督府初代民生長官・後藤新平の出会いから繋がって行く鈴木商店による大里での大里製糖所の建設、これに続き鈴木商店が大里および対岸の彦島において一大工場群を建設し日本の物づくり産業の一翼を担ったこと、現在も当時の煉瓦造の建造物が数多く残されており現役で倉庫や工場として利用されていること、またその多くが「近代化産業遺産」として認定を受けていることなどが紹介されました。

P10804352.JPG後半は、筑豊における鈴木商店の炭鉱事業の変遷などが解説されました。「第一次欧州戦争の結果、鈴木商店にとって炭鉱事業への進出は関係会社の資源補給上からも避けて通れない道」(金子三次郎)でしたが、三井・三菱・住友・古川など大手財閥に比べて同事業への進出が20年以上も遅く、地元の有力者から鉱区を譲り受ける形で開発を進めざるを得なかったことから基軸となる炭鉱の設立が困難になり苦戦を強いられたこと、しかし鈴木商店にとっては筑豊での経験が帝国炭業、(おき)見初(みぞめ)炭鉱の設立を経て、後の羽幌炭砿へと繋がる"結節点"となったことなどが紹介されました。

当日は、あらかじめ予約を申し込まれた70名余の方の参加をいただき、参加者は綿密な実地調査と洞察力に裏打ちされた解説やエピソードに熱心に耳を傾け、第3回目の講演会も大好評のうちに終了しました。

第4回講演会(最終回)は平成31年3月9日(土)14:00~15:00、当記念館監修でもある鍋島高明(たかはる)氏(株式会社市場経済研究所代表取締役)による講演(演題:金子直吉と岩崎弥太郎 ~共通点と相違点~)を予定しています。

第3回勉強会(鈴木商店関係書簡から鈴木商店の実像に迫る)は平成31年1月26日(土)14:00~15:30、当記念館の編集副委員長・小宮由次氏による勉強会(テーマ:"後藤新平宛て書簡"から読み取れるもの ①関門調査による彦島活用の件、②再生樟脳契約継続の件、③大連支店長平高を張作霖に紹介 など5点)を予定しています。

第4回講演会、第3回勉強会とも、申込開始時期など詳細につきましては神戸市ホームページ・広報誌等でご確認下さい。

下記の関連資料、関連リンクもあわせご覧下さい。

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