「古地図で楽しむ神戸」に城山三郎の「鼠」を通して栄町通にあった"鈴木商店"が取り上げられました。
2019.12.12.
古地図と絵図による"街歩き歴史歩き"をコンセプトに「古地図で楽しむ」シリーズを展開する出版社・風媒社(名古屋市)より「古地図で楽しむ神戸」が刊行されました。編著者は、神戸新聞社取締役の傍ら、神戸深江生活文化史料館館長を務める大国正美氏、著者は、神戸新聞社出身で神戸文学館館長の水内眞氏。
本書は、四つのPartから成り、Part1 「色と形でみる町と村」では、色と形から古地図を読み解く。文字で表現できない当時の情報を浮き彫りにする。
Part2 「海と山と川の風景」では、神戸を構成する海、山、川という要素を古地図から読み解く。海・山・川の権利や災害対策が重要とし、新たな絵図の読み取りの視角を模索する。
Part3 「歴史と伝説の舞台」は、近世以前の文学などを軸に、この地で積み重ねられた歴史と伝説が絵図にどのように描かれているか、文学作品を取り上げた。
Part4 「古地図で読む近代文学」は、明治・大正・昭和戦前期の文学の舞台の痕跡を同時代の地図に求めた。近代都市神戸を文学者がどう描いたのかをテーマにした。
◇鈴木商店焼き打ちを活写 城山三郎「鼠」
経済小説という新しいジャンルを開拓した作家城山三郎文学の最高傑作と評価される「鼠」は、大正時代、大財閥と並ぶ栄華を誇った鈴木商店が焼打ちに遭い(大正7(1918)年)、栄町通の壮麗な本社は一夜にして灰燼に帰した。昭和初頭の大恐慌で消え去るまでの真実と大番頭金子直吉の人間性を衝く作品。
Part4のうち、大正期に"東洋のウォール街"と呼ばれた栄町通にスポットを当てる。湊川公園を発した暴徒が宇治川筋に面した鈴木商店を襲撃したルートを大正9(1920)年当時の古地図に再現して見せている。然し、この地図には焼き打ちで焼失した鈴木商店、神戸新聞社の名が残る。鈴木商店は、この年の末に海岸通の旧居留地に移転した。