西川文蔵に関する関係者の言葉シリーズ②「鈴木商店の幹部の言葉」を掲載しました。
2022.4.28.
今回は「鈴木商店の幹部(*)の言葉」をご紹介します。
(*)金子直吉、柳田富士松、西岡貞太郎、谷治之助、森衆郎、高畑誠一、永井幸太郎の各氏
※左の写真は、亡くなる前年[大正8年6月]、45歳の西川です。
■金子直吉(鈴木商店大番頭)の言葉
「森君から亡友西川君の逸話を書けと命ぜられたけれども、西川君に逸話のあろう筈が無い。若しあったらば、西川君は決して尊むべき人では無かったろう。
抑々逸話と云うものは、小賢しい人が俗人を欺く為に行って見せる芝居の一幕である。即ち西川君はそんな芝居などをして人を欺く小才子で無く、最も尊敬すべき紳士であると同時に極めて誠実な事務家で、商売も可なり上手であった。
強いて西川君の行って居た事を形容すれば、孔孟の教にある様な君子が沢山の子弟を率いて六ヶ敷商売を円満に有利に行って居た様なものである。逸話や奇談に富んで居る人は真に偉い人でない。実は平々凡々の代物である。」(一部抜粋)
※西川に絶大な信頼を寄せていた金子直吉は彼の死を殊のほか悲しみ、自らを西川の「未亡友人」と称して俳句(三句)を詠んでいます。
〇西川君をおもう 未亡友人 白鼠
世の中に似たもの一つ雨後の月
〇絶句に対し 同人
梧桐の散りさうに無き葉色哉
〇写真に対し 同人
衣更へて咳する音の忍ばしき
■柳田富士松(金子直吉と並ぶ鈴木商店の二大柱石)の言葉
「世間には店が盛大になった為に、支配人其人の鼎の軽重を問わなければならぬことになって更迭を要した例は乏しくないのであるが、店では絶えて左様の心配が無かった。
十数年間を通じて支配人であった君の技量は盤根錯節に遭遇する毎に愈々益々顕れて、萬般の店務燮理其宜しきに合い、遖れ大鈴木商店支配人として恥しからぬ効績を挙げられたのは他に余り例の無いことであって、特筆に値するものと信ずる。」(一部抜粋)
■西岡貞太郎(鈴木商店下関支店長)の言葉
「故西川文蔵君は二十有六年間我鈴木商店に仕え、長く支配人の重位に在りき。君天資温厚、品性高潔にして名利を求めず、其欲する所は商店の隆昌に在りて毫も私欲の念なし。是を以て衆心帰服し、其高風を仰慕せり。
君の人に対するや温情に富み、公平無私を以て唯一の信条として毫も私心を挟まず、是を以て部下皆心服し、喜んで之が用を為せり。」(一部抜粋)
■谷治之助(鈴木商店四天王の一人、後・株式会社鈴木商店監査役、後・羽幌炭砿鉄道監査役)の言葉
「氏は寔に景仰欽慕すべき人格と手腕を兼有して居られ、器資宏偉、忠誠重厚、敏警卓識等の諸性行を具備せられました。
其人格と手腕を以て複雑なる店務を拮据鞅掌せらるるや、克く事体に通暁せらるるのみならず、終始一貫誠実を以て之に当たらるるので処理決裁流るるが如く、然も正鵠を失うことなく能く機宜に適はれたことと思惟せらるるので上信頼の極め深厚なりしこと、下衆望の帰嚮したことは偶然でないのであります。」(一部抜粋)
■森衆郎(鈴木商店支配人、「脩竹余韻」の編輯兼発行者)の言葉
「其清廉高潔にして寡慾なる、其風采の端麗にして容儀の上品なる、其頭脳の明晰にして機敏なる、其手腕の非凡にして計数に長じたる、其然諾を重んじて約束礼儀を欠かさざる、其品行方正にして謹直なる、謙遜にして威厳ある、其活発にして執拗ならざる、其坦懐宏量、愛憎の念毫もなくして一視同仁の温情ある、其困難に遭遇するも責任を重んじ百折不撓の忍耐力を有する、其中正公平にして公私の区別截然たる、真に何一つ欠点はない。」(一部抜粋)
■高畑誠一(鈴木商店ロンドン支店長、後・日商会長、後・太陽産業社長、後・太陽鉱工社長)の言葉
「ミスでしょげかえっている私をなぐさめ励ましてくれたのが、当時輸出部の主任だった故西川文蔵さん(現日商岩井相談役西川政一君の岳父)だった。『人間だれでも間違いはあるものだ。間違いをしてしまってから初めて、慎重さということが身につくものだ。君もこれを契機に成長してくれればそれでいい』― こう言って元気付けて下さった。
正直にいって、この西川さんの言葉がなければ私は会社を辞めていたかもしれない。西川さんは東京高商を中退して入社された。そんな経歴で鈴木商店に入っているだけに、昔かたぎの番頭さんの中に交じって人一倍苦労されたらしい。それだけに、"学校出"の私がつまらない失敗でくじけないように励まして下さったのだろう。その後も、私は何回か西川さんには力付けられた。」(一部抜粋)
■永井幸太郎(鈴木商店取締役本店総支配人、後・日商第二代社長、後・貿易庁長官)の言葉
「故西川氏は玲瓏玉の如く、此人に接するや春風駘蕩醇々乎として長者の風があった。けれども確かに稜々たる一角があって、誠に冒し難い所があった。
その一角というのは謹厳にして曖昧な事が大嫌い、一々右か左かを判別せざれば已まず。曖昧模糊の中に葬り去る如きは嘗て見受けたること無し。
・・・・ 故西川氏が何かの誤解で『是れは君何うしたのかね』と詰らるることがある。其事は斯く斯くでと説明すると、『ああそうか』後には胸中一物もなし。此時の同氏の態度が実に気持がよい。風光霽月と云うのは斯かる事かと思う。」(一部抜粋)
鈴木商店の幹部の言葉を一言で表すと、西川文蔵は「奇談も逸話もない清廉、高潔、謹厳にして温情、至誠の人」とも言うことができるでしょう。
なお、詳細については、次の関連ページをご覧下さい。