金子直吉の著書「経済野話」をシリーズでご紹介します。①「経済史眼の必要」
2016.4.30.
本書は、金子直吉が日頃から日本の経済界の実情などについて考えたことを金子の秘書を務めた住田正一(後に呉造船社長・会長、東京都副知事を歴任)に語り、住田が口述筆記の形で刊行されたものです。
口述は、金子の東京での拠点・東京ステーションホテル20号室でなされ、金子直吉名で著した唯一の著書として大正13(1924)年に巖松堂書店(東京市神田区)より 公刊されました。本書を刊行する前年の大正12(1923)年、鈴木商店は抜本的な機構改革を行い、持株会社としての鈴木合名会社と事業会社としての株式会社鈴木商店を創設、三井物産と覇を競う体制を整えたのです。
本書は、次の9章から成り、いずれも現代の視点からでも充分通用する経済評論といえる内容です。(1)経済史眼の必要 (2)国字の経済的改良 (3)米の経済的地位 (4)物価論 (5)金利論 (6)通貨論 (7)金輸出禁止論 (8)我国経済界の現況について (9)貿易論
今日、本書は国会図書館のほか神戸大学、明治大学、慶応大学などの各図書館に寄贈され所蔵されていますが、慶応大学図書館には"電力王"、"電力の鬼"として著名な松永安左ヱ門(慶応大卒)が寄贈した蔵書「松永文庫」の中に、この「経済野話」が含まれていました。金子直吉と安永のつながりは、鈴木商店が「佐賀紡績」を設立(大正5(1916)年)するに際し、松永が福沢桃介とともに設立時の株主に名を連ねた時に遡ります。
また、経済学者の中村隆英(なかむら たかふさ)は、その著「昭和恐慌と経済政策」のなかで、金解禁政策について金子直吉の提言(第8章 金輸出禁止論)を引用しています。これら実業家や経済学者も金子の経済理論を評価していたことが明らかです。
時代の風雲児であった金子直吉の経営センス、時代を見通す優れた先見性が読み取れます。金子が何故、三井、三菱を凌ぐ大商社を形成できたのか、その答えがこの書にあるに違いありません。鈴木商店、金子直吉研究の必読書と云えるでしょう。
シリーズ9回のうち第1回は、「経済史眼の必要」をご紹介します。現代表記(抄訳)および原文(横書き表記)をご覧ください。